歯科医院を東京で開業するには

東京で歯科医院を開業するにあたり、立地や初期投資の部分で悩んでいらっしゃる方も多いと思います。
東京で歯科医院を新たに開業するにあたって、その経緯をまとめたMRICの論文がありましたのでご紹介致します。

サッカー通りみなみデンタルオフイス 院長
医療ガバナンス研究所 研究員 橋村威慶

2019年7月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
2019年5月に私は東京都文京区で歯科医院を開院した。二度目の新規開院となる。一度目は2001年3月に東京都江東区での開業だった。この二度の開業から実感した歯科医療業界の変化と歯科業界の雇用の現状について述べる。

本題に触れる前に開業に至る経緯を述べたいと思う。今回この地で開業した動機は当研究室が発表した地域歯科医師数に関する論文を参考としている。2018年に発表したこの論文Distribution of dentists in the Greater Tokyo Area, Japanは市区町村単位の歯科医師数を対象としており、その範囲で考えると今回開業した場所は新規開院地として不適だった。しかし、地域密着型の歯科医院が対象とする範囲は半径500メートル程であり、市区町村単位で見た場合現場と違うケースが度々ある。他の論文やデータも市区町村単位より小さな区分の歯科医師数を対象にしているものは存在せず、本当に開業地と適しているかどうかは独自で調査するしかない。
筆者は数百メートル単位で調査してみた結果、この地は新規開業に適していると判断した。都内23区にはどこも歯科医師が過剰であるにも拘わらず、なぜこのような場所が都心に存在したか。開業した地と同じ診療圏(患者が受診可能な距離)に東大附属病院、順天堂医学部附属病院、東京医科歯科大学附属病院がある。この3医療機関だけで在籍歯科医師数は600名を超える。東京都の歯科医師の十分の1以上がここにいる。ただしこの3医療機関の受診患者は9割以上が地元以外の患者で構成されている。データ上では新規開業候補地としては最悪なのだが、医療機関数は他の都心部と比べて少なかった。そこに新規参入する余地があったと推測できる。灯台下暗しである。

他に開業した理由として職住接近であること、融資を受ける年齢が適していること、我が子たちが通う通学路に当医院があるため、子どもたちと接する時間が増えたことなどが挙げられる。個人的には子どもと接する時間が増えたのが一番嬉しい。

18年前と今回の開業から歯科医療界はIT化の波を受けていると如実に体験した。当時開業した時はなかった分野だ。例えば根幹を治療する器具は手動で針のような器具を口腔内で回転させて治療する方法しかなかった。しかし現在は電動の専用ファイルで回転数と圧力を検知し、それをiPadでコントロールするようになった。歯を削って歯型を採るには印象材といって、粘土みたいなものを口腔内に入れて固まるまで待つ以外なかった。今は入れ歯や一部の被せ物を除き、光学印象といい、歯型を取らずにカメラでスキャニングし、データが即座に製作所に送られ3Dプリントによって被せ物を作るシステムが開発された。レントゲンはフィルムの現像や定着などはもはや学校の実習のみで行われ、全てデジタル化された。またCTが1医療機関に1台あるというのが当然の流れとなった。枚挙にいとまがないが、これらの多くの機器はリンクしあい、電子カルテによって包括されていくようになった。

機器の進化は医療技術の底上げと治療の正確さと早さを上げるのに大いに役立っている。また部分的ではあるが、歯科医師の技量による差を無くしたという点で質の担保の確保が可視化された。このままIT化が進めば、分かりにくかった歯科治療を一般の方々に広く理解できる良いツールとなる。

しかし、IT化には費用がかかる。筆者の場合も18年前になかったIT機器を導入したため機材費が3倍も増えた。IT化による恩恵は我々歯科医師も受けており歓迎したいのだが、問題はそれに対する診療報酬が見合っておらず、保険治療では到底採算が取れない。

予想外だったのは、IT化も含めた全機材、システムを最新のものにしたにも拘わらず、さほど患者さんが感心した様子は示さなかった点だ。前医院から新医院に移って来た70代の患者さんは、「同じ機械で前と同じ様に治療して欲しい」と言ってきた。また30代の男性患者さんは「どこも同じ感じだ」と言っていた。前者は新しいものへの不安感、後者はネット環境による映像情報により視覚的な新鮮さが失われた様だ。

人材募集は様変わりした。18年前は募集すれば何人も来るというのが当然だった。だが歯科業界は他の業種と同様、人材不足であり、従来の募集では人が集まらなくなった。いくら素晴らしい基本理念や方針を出しても、反応はない。募集者が来るためには、まず第一に福利厚生がいかに充実しているかがポイントとなる。これは学校教育の授業に医院の選び方としての講義があり、福利厚生が不十分なところには就職しない様に指導される。次に退職金。これに関しても授業があり、現状、個人医院で明確に打ち出している所は少なく、就職する際の面接時の質問事項として挙げる項目だそうだ。

歯科医療従事者の職場に対するアンケートでは、人間関係、勤務時間、職場の良い雰囲気を保つための取り組みなどが重要視されている。意外なことに賃金はさほど関心が高く無く、キャリアパス的なものや、先述した医院の理念なども職場では意識されていない。

筆者は以上のことを踏まえてスタッフの募集をした。当医院のホームページ

https://www.minamidental-office.comに上記を踏まえた内容が掲載されているので、ご参考にされたい。

幸いなことに、開院までに必要数が集まり、充実したスタートを踏み切った。ただし、職場環境の充実は医院経営面から見ると相反するものとなり、経営を圧迫する。今後の当院の課題となる。

開業して1ヶ月経つ。データに基づいて開院した医院は今後どうなっていくか、後ほど経過をご報告する。